平成二十九年 岩見重太郎 狒々退治

平成二十九年 出陣

岩見重太郎 狒々退治

(いわみじゅうたろう ひひたいじ)

 岩見重太郎(いわみじゅうたろう)は、父の仇討ちのため旅に出たが道中負傷し、通りがかりの村人の家で介抱された。数日で回復し、村人も喜んだが、どこか笑顔に陰りがある。
 問うと、山奥の神社の神様が、毎年若く美しい娘の家に白羽の矢を立て、そこに住む娘は箱に入れて捧げねばならないという。もし背けば、村には大きな災いが起きる。
今年はこの家に矢が立ったので、準備の最中だというのだ。
 重太郎は「神が人を犠牲にするものか!」と怒り、『神様』の正体を暴くべく、自らが娘の着物を被って箱に入った。村人たちはその箱を神社へと運び込む。
 静寂な時が過ぎる中、フクロウの声と共に怪しい気配と異様なまでの生臭さを感じ取った。
そっと蓋が開いた次の瞬間、被っていた着物が勢いよく剥ぎ取られた。
 すかさず飛び出た重太郎の眼には、赤ら顔で鬼のように巨大な狒々(ひひ)が映った。
奇声を上げながら襲い掛かってくる沸々に、重太郎は得意の剣術で立ち向かった。
一進一退、長い激闘だった。
 翌朝、狒々退治の知らせを聞いた村人たちは歓喜し、何度も何度も礼を述べていた。
その声を背に、重太郎は本懐を遂げるべく、旅路を急ぐのであった。
 大坂夏の陣、豊臣軍で真田幸村らと共に戦い名を馳せた武将、薄田隼人正兼相(すすきだはやとのしょうかねすけ)若かりし頃の武勇談である。
 未知なるものへ恐れず挑み、巨悪を退治した重太郎の姿に、争いや災いの無い平和な世が永く続くことを祈り願う。

解説 手塚 茂樹

○○賞 受賞

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